2010年2月11日木曜日

『農業科と研修旅行を考える』

一.日本農業の概況  1995年執筆

1995年2月現在、農林水産省の調査によれば、農家の人口は1506万人で、過去5年間に224万人が減少した。内訳では農業専従者や主に農業に従事している人は489万人で、5年間で13.5%も減ったという。一戸当りの経営農地は1.2%で五年前より5.4%増加。年齢構成で65歳以上の割合は、24.7%と5年前より4.7%増加した。とくに稲作農家における65歳以上の割合は50.9%と初じめて5割りを超えるなど農業担い手の高齢化が浮き彫りになった。

 1995年11月「新食糧法」施行された。約50年間続いた食管法が現実からかい離していことや新多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)の農業合意によるコメの部分開放を背景にいま日本農業は新しい時代を迎えた。

「新食糧法」施行にともない、1996年6月から小売り事業は都道府県知事に許可制から登録制に変わる。政府による全量管理体制から民間流通を主体にした部分管理になるという。販売する場所さえあればだれでもコメを売ることができるのだ。
 この「新食糧法」は農業ビジネスにとっての規制緩和であり、生産から消費までコメ取り引きに競争原理を導入するもの。消費者にとっては「安いコメ」期待が高まるものの、販売サイドでは新たなビジネスチャンスを求めて激しい競争が予想される。
 日本の食糧市場は総額、一人当たりの支出額でも世界で有数の市場といわれている。とりわけ、調理食品や外食、不可価値の高い需要が増えているのが要因だという。
 1993年には食料時給率が37%に低下した。日本の食料輸入額は85年以降急増しており、85年から90年までで1.5倍になったという。この海外からの輸入農産物の増加は今後もますます拍車がかかるだろう。
 国内においては農家の後継者不足、高齢化問題が年々深刻になりつつあり、国際競争の中で日本の農業がいかにして生きていくか、など内外にわたり課題は多い。

二.農業科を取り巻く状況
 学校農業科を取り巻く環境も転換期を迎えつつある。新しい時代の中でその存在意義、あり方が問われている。新学習指導要領では、農業経済、食品流通等に関する教育内容の充実として「農業経済」「農業会計」「食品流通」「食品加工」の科目が新設。またバイロテクノロジー等の新技術や情報化の進展に対応した教育内容の充実として新たに「生物工学基礎」「農業情報処理」「課題研究」設置された。
 学科の改善としては「農業経済科」の新設や「食品製造科」から「食品科学科」へ、「生活科」から「生活化学科」へと学科名が変更になった。 社会の変化や科学技術の進歩に主体的に対応できる能力と態度の育成をはかることを目的とした改善だという。

三.農業科への研修旅行を考える
<テクニカルビジット研修旅行>
 視察素材としてできる限りテレビや新聞で取り上げられた素材を紹介してみる。農業は我々の生活に「食」の部分で密接に関わっており、その意味では切り離すことはできないだろう。生産者と消費者との良好な関係維持のためにも生産者と農業科生徒に尿業を取り巻人気筋、流行も視察して欲しい。なお見学受入れ可否はご事前に確認いただきたい。
「産地表示小売店」を視る
 野菜や果物の輸入物の生鮮食品の産地を表示する小売店が増えているという。円高の影響もあって産地を確認したいと言う消費者の要望が強まっている。生鮮野菜の1994年輸入量は約65万トン(前年比66%増)、農林水産省でも将来的には表示を徹底させようとする方向で検討を始めた。一方で表示することによる消費者の敬遠傾向も予想される。
〔視察先候補〕
 ・イトーヨーカ堂…農産物について国内海外を問わず全品に表示をしている。
・ジャスコ…三年前からころから表示を充実するよう努めている。
 ・ダイエー…売れ筋商品について表示を徹底。

「地アイスクリーム」を視察
 いも、羊乳、濁り酒、わさびなど一風変わったアイスクリームがちょっとしたブームである。地アイスとよばれる地域限定のユニーク商品である。地域おこしのアイデアとして個性のあるヒット商品となるものを農業科でも検討してみては?
〔視察先候補〕
 ・濁り酒を加えたアイス…宮城県松山町
 ・わさびの入ったソフトクリーム…静岡市平野地区、長野県安曇野
 ・さつまいもアイス…埼玉県川越市で商品名「いもアイス」を考案
 ・羊乳アイスクリーム…北海道小樽市
 ・さくらんぼアイスクリーム…山形県寒河江市。その他ベニバナ、モッテノホカ、イカスミなども生産。
「第二次ハーブブーム」を視察する
 80年代後半に広がったハーブブームが復活した。最近の自然派志向に支えられて、買うハーブから育てるハーブへと消費者の楽しみ方も変わっているという。人々が望むものを日本農業として供給できるよう研究し取り組むことは、将来的にも時代に即した農業を存続させることになる。市場規模は20億円で、その内8割以上が外食産業向けである。このハーブ産業に対する農業科への提案としては、次のようなものが考えらる。
 ・「ハーブ園芸育成講座」
 ・「学生によるハーブの新商品化」…香り袋、石鹸
 ・「ハーブの新種改良」
「アロマテラピーブーム」を視察する
 ハーブブームの一つではあるが、市場規模は1000億円に届くという。今後農業での健郵政かが一般生活にいかに貢献していくかということを考えたとき新たな取組が必要。アロマテラピーは芳香療法の一つとして注目を集めている。日本ハーブ協会連絡協議会には約300もの企業や個人が加盟している。
〔視察先候補〕
 ・「日本ハーブ協会連絡協議会」への訪問、講演会など
 ・「ハーブ情報誌“HERB”」を訪問、記念講演会
 ・全国のハーブ園を見学、およびハーブフェスティバルへ参加
「無農薬農産物」を視察する
 世間で今消費者の注目を集めている農薬や化学肥料を使わない有機農産物。食品に関する安全性と環境問題を重視したり、第三世界の生産者の自立を支援したりする「共生ビジネス」。この「共生ビジネス」への若い生産者の自立の思いを支援しようする動きが盛んになってきている。

〔視察先候補〕

 ・「第三ショップ」…東京都目黒にてオープン。無農薬、無添加、無糖缶コーヒを開発。
 ・「らでしゅぼーや」…埼玉県戸田市。有機農産物、無投薬の養殖魚、無添加食品などの会員制宅配。
 ・「ポラン広場」…埼玉県上尾市。有機農産物、無添加加工食品などの共同仕入れ機構野菜の生産農家と消費者との交流も盛んである。 

「有機農業」を視察する
 全国的に今、有機栽培、低農薬米に取り組む農家、農協などが増えつつある。有機農業を通じて都市部の消費者との交流を広げたり、規制緩和が追い風となって「有機栽培」「低農薬米」にこだわりのある消費者を狙いに、安全性や品質を前面に押し出した米が注目されている。・宮城県経済連…ササニシキなどの有機栽培に力を入れている。
 ・茨城県岩瀬農協…有機栽培、低農薬米のコシヒカリを「太陽ひかり米」として首都圏へ産地直売している。また自然農法としての「太陽熱乾燥」もPR
 ・千葉県「山賊クラブ」…有機農業を通じて都市部の消費者との交流を広げ、休耕田復活を目指す。あたらしいむらおこしの形態として注目されている。千葉県鴨川市の大田代集落
 ・「DEVANDA」…全国的な消費者組織として千葉県市川市にDEVANDAが発足。有機農産物の産地直送の体制を進める活動を実施。

「市民農園」を視察する
 土にふれたいという都会部の自然派志向は相変わらず健在である。同時に周りの人々やとの交流を求めて市民農園も変過しつつある。
 しかし調理室、シャワー完備の豪華クラブハウスなどが登場するなど、まだまだ本物の自然のなかでの市民農園では期待は遠い。都市部での市民農園はコミュニケーション型。地方ではむらおこし型が特徴といえる。これらの市民農園を通して、将来的日本に根付く日本型市民農園を研究してほしい。
 ・東京都練馬区「貫井市民農園」
 ・東京都世田谷区立市民農園
 ・長野県四賀村「坊主山クラインガルデン」
 ・群馬県倉渕村「倉渕村クラインガルデン」 など市民農園は全国に約五〇〇〇か所。

「ユニーク農法」を視察する
<合鴨農法>
 農薬の代わりにアイガモを田んぼに放ち、害虫駆除や雑草を食べさせる。東南アジアでも行われている。日本でも「全国合鴨フォーラム」が開催されるなど環境を保全する合鴨農法、知恵のある農業、むらおこしの一環として注目されている。
 ・宮崎県木城町
 ・岡山県高梁市
 ・岐阜県大垣市
個性米…全国でユニークな個性米が出現したという。新食糧法による競争激化を勝ち抜く狙いで、ちょっと変わった栽培法が特徴だ。無農薬、天日乾燥、天然ミネラル水利用など、従来は有機栽培、低農薬栽培であったからものからの個性化戦略だ。

 ・高岡市、滑川市…「アルギット米」。ノルウエイー産の海草と有機肥料を組み合わせた土からコシヒカリを栽培する。
 ・秋田件大潟村…「カルゲン米」。魚の骨などカルシウムを多く含んだ土壌改良剤を使用。
 ・岩手県…「天日乾燥米」。機械乾燥より舌触りはいいという。
 ・佐賀県西有田町…「棚田米」。雨などの天水だけで利用する棚田120アールに限定して栽培。

「モンゴル遊牧気分」を体験
 日本でモンゴルの宿泊施設「ゲル」を宿泊体験できるところがあるという。農業科の学習課程とは直接関係ないが、他国の放牧生活を体験できる施設としても注目されてつつある。
〔視察先〕
・モンゴル村…長崎県鷹島町。その他見学施設は歴史民俗資料館がある。 

海外視察研修旅行

 大規模農業を得意とする農業大国よりアジアに目を向けたい。今後アジアにおける日本の役割を考えると、アジア諸国に貢献できる知識、技術はまだまだある。現実にアジアへでかける日本の農業高校も次第に増え始めた。最近話題になった国を上げてみた。
 タイ農村視察…広島の農業高校が実施。タイ北部のクンバイヤー村を訪問。その他タイの米生産地としては、日本でも知られている地名として、チェンライ、チェンマイ、カラシン、コンケーン、ナコンサワンなどがある。


四.その他の実施事項案

・農村体験プログラム創り
 グリーンツーリズム。こんな言葉のもとに農山村で自然体験や都市との交流をする傾向が注目され出した。数年前からグリーンツーリズム推進指定都市に名乗りをあげる自治体が増えるなど、自然派志向にともない今後も伸びていくことが予想される。ただ受入れ側の宿泊施設面もさることながら、体制や農山村業体験メニューの充実や課題といえよう。修学旅行ですでに体験学習としてかなり前から受け入れをしている自治体もあるので問題はないが、この機会に社会人向けにルニューアルすることを考えてみてもいいだろう。むらおこしの施策としても有効な事業ととらえることができる。
・農山村業体験インストラクター養成
今後市民農園や都市部の自然回帰欲求を満たすには、本当の農業をレクチャーできる市民向け指導者、農山村業インストラクターが必要になってくるだろう。それには農業学科卒業生が携わってくれれれば心強い。ボランティアとしても、地域人材シルバー層の活用としてもむらおこしにも活用できる。


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