by a.n
2.知事の多選による影響
2-1.知事の多選は影響を及ぼしているのか
次に、知事の多選は議会や自治体などに影響をおよぼしているのかを見ていきたいと思います。一体どのような影響をおよぼすのでしょうか。
知事選に出馬する現職知事の当選回数によって有権者の意識が変化し、その影響を受けて投票率、得票率も変化することが指摘されています。
平成4年4月の時点で在職の知事に対するもの。松下政経塾のホームページのデータによる。
図4は、知事選における出馬する現職知事の当選回数と投票率の表です。出馬する現職知事の当選回数が2回目の場合、投票率は一挙に下がります。これは有権者が現職知事に対して、2期8年までは任せてみようとするためであり、投票率は下がる一方で現職知事の当選する確率は高くなります。当選回数が4回目になると多選批判が一つの政治争点となりやすく、投票率は前回よりも上昇し、5回目では知事の権限が強大になった結果、選挙戦の前に現職知事の当選が事実上決まってしまっていたりすることから選挙無関心層が広まっていくことが考えられます。「投票するからには自分の投票した候補者を当選させたい」、「先の見えている選挙に対して投票する意欲はわかない」という有権者の意識の表れととらえることもできます。
2-2.メリット
バランスを持って本レポートに取り組みたかったため、2-3に示されるデメリットに対するメリットも調査したかったのですが、最近の文献は知事の多選による弊害を指摘するものに偏っており、メリットを指摘する文献を見つけることができませんでした。
そこで、私個人の意見を述べます。
① 知事は長期的ビジョンに立って政策に取り組むことができる。
知事の任期は1期4年ですが、政策を打ち出し、実行し、結果を出すには4年は短すぎる場合もあります。そのため、多選をくりかえすことで知事の個性を発揮し、長期的ビジョンに立って政策に取り組むことができるというメリットが考えられます。これによって従来の利益誘導型の政治に頼ることなく、地方自身が利益を生み出すこともできるようになります。
② 有権者は知事をより正確に評価することができる。
①の結果、有権者もその知事の個性や政策の評価をより正確に行うことができるのではな
いでしょうか。
2-3.デメリット
知事の多選がくりかえされることのデメリットを見ていきます。
①知事選の投票率の低下、無投票の増加[viii]
2-1で見たように、有権者は、「先の見えている選挙に対して投票する意欲はわかない」という意識を持ちます。そのため、多選が繰り返されるとその知事の当選が確実であることが目に見えてしまい、投票率の低下や無投票の増加を招く一因となります(図5参照)。さらに、それによって多選が招かれるという悪循環に陥る可能性もあります。
(椎橋勝信氏の「自治体選挙の構造[ix]」のデータによる。)
②人事停滞、腐敗政治[x]
知事の権限はとても強いものです。その権限だけ見ると内閣総理大臣よりも強く、アメリカの大統領にも匹敵すると言われています。たとえば、行政執行のための官僚組織という有能で忠実な手足に支えられていまし、職員の人事権、毎年の予算という財政権、土地利用の許認可権、補助金を各種団体に支給すること等の強力な権限を一手に握ります。
そのように権限が強い知事が多選をくりかえすと、知事の専制化、独裁化が起こり、官僚組織も硬直化します。その結果、人事の停滞や側近政治により職員の士気が低下し、また、癒着による腐敗も起きやすくなってしまいます。
たとえば、知事の周囲が、人事上の自分の保身を考えるあまり知事に不利な情報や助言をしなくなり、ただご機嫌取りをする「イエスマン」になってしまったり、その結果、知事自身も自分の行動を省みなくなり独裁、専制に走ってしまう恐れがあります。癒着による腐敗の例としては官製談合などが挙げられます。
③チェックアンドアンバランス機能の低下[xi]
直近の知事選で、当選した知事を公認・推薦・支持した政党に所属する議員や、議会で与党の立場を明確にした議員を「与党議員」といいます。この与党議員が6割以上いれば、知事よりの議長を選出することも可能です。つまり、議会において議長や議員がみんな与党化する状態が生まれます。これを「総与党化」といいます。わが国の議会のほとんどは与党率が高い状態です。
そのような中で知事の多選がくりかえされると、本来あるべき立法と行政両者間のチェックアンドバランスが効かない状況になり、行政は惰性に陥りやすくなってしまいます。最悪の場合、「フリーパス」といって、知事提案の議案がすべて原案通りに可決・認定されてしまう状態が起こります。
④知事が語る弊害
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