2010年1月31日日曜日

『少子化時代の修学旅行を考える』

 
※この原稿は1995年に書いています。

日本における「高齢化」と「少子化」は今急速に進んでいる。『日本の将来推計人口』(厚生省)の中位推計よれば、2011年に日本の総人口は1億3044万人でピ-クを迎え、65歳以上の人口の割合は21.4%となり、その後減少に転じる。高齢者の人口が多いというより、子どもが少ないということも考えられるが…
学校現場に目を向けてみると、1992年の122万人いた18歳人口をピ-クに減少し始め、1995年には110万人強まで落ち込み、2000年には97万人になると予想されている。受験生が増え続けた七年間が「ゴ-ルデンセブン」と言われたのもの遠い過去となった。
 1994年の出生数は前年より5万人以上の増加となり、少子化に歯止めがかかる期待がもたれていたが、「1995年人口動態統計の年間推計」によれば1995年の年間出生数は、前年より4万5千人以上減少し、119万3千人で2年振りに120万人を割り、再度減少に転じたという。
 修学旅行においても少なからずこの「少子化」の影響による修学旅行生の減少が起きているの周知の通り。以前から分っていたことではあるが、社会環境が変化することにより、修学旅行の実施内容も変わってきたように感じる。その特徴を体験的にみていきたい。


一.「団体の中の個人から個人を含んだ団体へ」

 核家族の増加にともない子どもたちの中には、集団生活の不適応者生徒が増えているという。兄弟姉妹や友達も少なくなり、人間関係の調整力が欠如する子ども増えているというのだ。この意味では修学旅行は「旅行という宿泊的行事を通して、集団活動や生活、良好な人間関係の譲成への訓練をする絶好の機会であり体験の場ある」といえる。
 今回の文部省『学習指導要領』の改訂で「旅行的行事」が「旅行・集団的宿泊行事」ノ位置付けられたのもうなずける。従来の修学旅行では観光地への見学は学年全体でクラスごとの見学が多かった。最近ではグル-プ単位での行動が増えている。これはクラスの構成人員が少なくなったこともあるが、小人数の方が同じ団体の中で役割分担し行動するより、生徒へ責任感を持たせ、社会性、協調性を育みやすいという点も見逃せない。また学習という点からも団体で取り組むよりグル-プ単位の方が指導もいき届きやすいし効果的であろう。グル-プの中で自分のポジションを確認し、他人と異なることを認識、その中で相互の意思疎通を介して社会性、協調性を学んでいくのある。現状では「団体からグル-プ」へという段階であるが将来的には「団体から個人へ」移行するだろう。
 修学旅行も最終的にはグル-プ単位から「個人」というものを重視した修学旅行へ移行するだろう。まずは、修学旅行の実施時期は同じで、クラス単位での行き先や目的は個別という実施形態で今後は増えるだろう。実際にクラス単位で修学旅行を実施している学校も実存する。もはや昔の修学旅行のイメ-ジはそこにはない。
 さらに進んで、修学旅行のテ-マとしてもクラス、グル-プでの設定ではなく、個人が課題を設定して、それを団体活動である修学旅行の中で自分なりに解決していくという形態の修学旅行が行われるかもしれない。まさに個人型団体活動としての修学旅行であるといえないだろいうか。


二.「和から洋へ」

 我々の生活様式が和風のものから洋式のものに変化するにつれて、修学旅行でも衣食住の面で当然変化が現れた。
 当時は一枚の布団で二名が寝るということはあったが、さすがに今はこんなことはないだろう。ここでも団体からグル-プ、グル-プから個人という流れが見受けられるのではないか。修学旅行で宿泊する施設については、ほんの十数年前まではほとんどの場合は旅館であった。これは畳のある部屋を持つ宿泊施設という意味での旅館である。最近ではベッドを備えた部屋を持つホテルが増えてきた。われわれの生活が布団からベッドに移行してきたことも要因であるが、五~六人で一部屋という部屋割りが、今やホテルでのツインル-ム、またはトリプルでの使用という形態が目立ってきた。食事も朝食・夕食に関わらず、洋食メニュ-が好まれるようになった。朝の味噌汁やご飯は、ミルクやパンになり、布団はベッドに、トイレも和式から洋式になった。修学旅行では洋式でしかトイレにいけない生徒も現れた。旅館の雰囲気、和食のメニュ-は次第に減少しつつあるのだろうか。今後修学旅行の実施については洋式、洋風がキ-ワ-ドかもしれない。最近宿泊施設で人気があるのは、実際の宿泊は別にしても「民宿よりペンション」「旅館よりホテル」これが現状だろう。伝統的な木の雰囲気の旅館よりおしゃれなペンション、近代的な鉄骨のホテルの方が人気があるし、現代生活にマッチしているのかもしれない。また生徒の減少、活動単位の縮小化にともない、ホテル形式、小人数での宿泊形態のほうが生徒にとって利用しやすいのも事実だろう。


三.「見聞から体験へ」

 修学旅行が学年単位、クラス単位で行われている時は、見学は団体で見聞できることが前提だった。下手に個人行動されると先生の目がとどかず管理困難だからだ。しかし今や修学旅行の目的のなかでは、班別自主研修、体験学習は切り離せない重要なキ-ポイントになっている。最近の生徒の日常の生活、行動様式、意識を考えてみると、都市部における自然体験や社会体験、労働体験などは極めて乏しい。メディアをはじめとする映像、文字情報を通しての目や耳から得られる情報がほとんどである。五感を通して感じる体験が極度に不足している。その意味では修学旅行という非日常的な場で、普段と異なる自然や文化、産業に直接触れ、実体験できる機会は重要といえる。見聞から体験へ、見ることから触れることへ」。よくいわれることに耳から聞いたことは右から左へ素通りすることが多く、見たことは記憶に残り、体験は確実に自分の中に残るのだ。体験というものは、将来社会で生きていく上で、物ごとに対する見方や、考え方、とらえ方を養う訓練となる。とりわけ子どもの頃の体験は、より具体的な体験活動を通して、知識や思考、判断力、行動力などを育むのに役立つからだ。

〔修学旅行における主な体験学習の一例〕

・創作体験…地域の伝統工芸、民芸品を中心に、半分くらい仕上がった最後の工程を生徒に創作させるもので、焼き物や絵付け、凧づくり、紙すきなど。
・農作業体験…じゃがいも掘り、田植え、稲刈り、りんご狩り、みかん狩り、さくらんぼ狩りなど農作業の一部を体験するもの。
・伝統芸能体験…地域に伝わる伝統芸能の鑑賞。一部では実際に生徒が習得することも可能なものまである。昔から伝承されてきた踊りや唄などである。
・スポ-ツ体験…スキ-修学旅行など生涯学習の一環として高校を中心に人気がある。最近ではマリンスポ-ツも出現した。

 問題点は、修学旅行という時間的に制限のある中、終始一貫すべての活動過程を体験できないことであろう。創作体験なり農作業にみられるように、半製品を完成させるとか、作業の一過程を手伝わせるということが、その歴史や社会背景、地域特性、物ごとの本質を理解し、その上で体験しているのかどうかが疑問である。
 しかし、団体行動ともに体験を中心とした修学旅行内容は、時代に対応しつつ実施形態は変化するものの、今後も確実に増加してくことが予想される。



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四.「少子化」による修学旅行への将来的展望

 一般的には年々出生数は減少傾向にあり、子ども人口全体が縮小に向かいつつある。バブルの頃は「一点豪華主義」などと言われたが、そんな時代も過ぎ去り、いまや不況のもと消費市場全体が低迷にある状況だ。
 社会一般的な傾向では、人口減少より新製品の開発力のほうが期待できるため、子どもの消費市場は拡大するとみられている。現に子どもが大人の真似をしたりする背伸び執行や、ワ-プロ、電子手帳やポケベルなど大人と同様の電子機器を持ったりして、購買層はますますの低年齢化が進んでいる。
 ここでは考えられうる少子化にともなう修学旅行への将来的な影響を予想も含めて大胆に考えてみた。
 まず一人当たりの修学旅行単価の上昇が考えられる。
 当然のことだがバス一台当たりの頭割りにしても分母が小さくなれば、出てくる数値は大きくなるし、宿泊にしてもツインやトリプルベ-スの部屋使用ではどうしても料金は割高になる。とくに行動の主体が団体から個人へとシフトするにつれて、次第に団体割引きやスケ-ルメリットが活かせなくなりつつあるのが現状だろう。交通費宿泊費などの頭割り項目は仕方ないにしても、問題は単に旅行料金が上がることではない。宿泊、食事個所では、実際のところ修学旅行は料金的に安価なため、ある程度の不便さやお粗末さは黙認されてきた傾向がある。つまり安いのだから文句言うな式の対応だ。しかし今後は一般の旅行と同様に修学旅行の本質に関わる体験学習の内容等へ、料金に見合う質自体の向上も当然望まれるだろう。安かろう悪かろうは修学旅行では通用ようしにくくなっている。現実に一般旅行者のほうが宿泊料金が安いという逆転現象もでてきている。
 次に修学旅行の実施形態がよりグル-プ化、より個人単位で実施されていく。一部の学校でその兆候はすでにみられはじめている。費用の高額化にともない、修学旅行代金を低く抑えるために現地集合、現地解散の学校修学旅行が今後出現するかもしれない。
 最後に学校一学年当たりの生徒数が減ったことに対して、学校間での「募集型の修学旅行の実施」が起こるかもしれない。共同実施、連合の実施形態はへき地の小さな学校などで実際にある。グル-プ化、より個人化は確実に進むものの、団体行動を通して実施する生活指導、とくに集団生活や公衆道徳の習得には修学旅行が有効なことをとらえれば、次のような実施形態も考えられる。

 ・学年同時実施…学校内で一学年の生徒数が少ない場合に、二年に一度位の実施で学年をまたがって実施
 ・連合形態での同時実施…いくつかの学校が同時期に実施。団体としての実施を前提として。
 ・選択幅のある目的別実施…学校内で修学旅行のコ-スをいくつか設定して生徒に申し込み選択させる。クラス個人単位を超えた実施形態として考えられる。実際に行っている学校もあるという。またさらに発展させて地域の数校で募集するというのも考えられるかもしれない。

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