2010年2月4日木曜日

『海外修学旅行を考える』

※1995年執筆
一.海外修学旅行の現状
 1995年に入って教育旅行界では「海外修学旅行」がちょとしたブ-ムである。韓国、中国をはじめ今やオ-ストラリア、シンガポ-ル、ハワイ、サイパン・グアムへの修学旅行まで、ここにきて一気に拍車がついた感がある。
 1994年に海外修学旅行を実施した公立高校は、財団法人「全国修学旅行研究協会」の調べによれば107校である。また国内の修学旅行で航空機を利用した高校は1039校となった。同協会によれば方面では韓国・中国で全体の約九割りを超すという。ご存じの通り私立の高校においては、以前から海外への修学旅行を学校の特色として採用している。公立学校からの生徒奪取の切り札として昔はよく使われたものだ。
 しかし、今や月並みな海外修学旅行くらいでは私立の魅力付けにはならないことにも気付いているはずだ。
 もともと海外へ修学旅行を実施することについては国内と異なり、修学旅行の内容以前に公の部分でもさまざまな課題を抱えている。例えば数年前に運輸省が提唱した「海外旅行者1000万人計画」などは、政府の観光、航空施策の一環でどんどん日本人が海外へ出掛けていくことを推進した。そして1995年とうとう海外旅行者は1500万人を突破したという。
 修学旅行の実施においては、管轄省庁は学校教育であるから文部省である。確かに国内での修学旅行の実施に際しては、取り立てて他の官庁をまたがって対応することも少なかった。こと海外修学旅行に関しては海外への輸送の面で運輸省が国内以上に関わってくるだろし、事前の海外の情報収集や万が一海外の地において不幸にも事故が発生した場合には外務省がでてくることになる。そして一番の窓口として従来の文部省があるなと三つの省庁が絡み合った上での修学旅行の実施とならざるをえないのが現状だろう。
 急速な国際化の流れ、最近の円高基調、アジア志向などをみても海外修学旅行が盛んになるのもうなづける。海外修学旅行を昔のように特別視する必要はなくなってきている。 しかしその一方で一部の公立高校の中では、数年前から海外修学旅行を止めた学校も現れだした。国内修学旅行の方が自由に行動できて、実りのある旅行になるという理由からだ。
 とりわけ私立の高校と異なり、公立の高校が現実に海外修学旅行を実施する際に数々の制約があるのも事実である。公立高校が海外修学旅行の実施の増加につれて私立高校の実施にまで影響が出始めた。それは生徒募集の差別化手段であった海外修学旅行が、もはや効果的な魅力とはなりえなくなったからだ。公立私立を含めていま、あえてなぜ海外修学旅行を実施するのかを再検討してみたい。

二.「海外修学旅行ねらいと効果」
海外修学旅行のメリットというより、むしろ海外修学旅行を実施する狙いと置き換えたほうがいいかもしれない。実施に踏み切るかどうかはこのあたりの効果が期待できるかが、ポイントとなろう。

実施意義の面では、

・「国際化への対応、国際理解と国際親善」
・「異国の歴史文化への学習」
・「外国語のなどの語学習得」
・「外国の見聞から日本についての再認識する」
・「海外の同世代の仲間との交流を通じて」
・「日本文化の普及」 等があげらる。

さらに実務面でみると、
・「国内旅行の費用と比較して遜色ない」

三.「海外修学旅行への課題」
 海外修学旅行の実施が活発になるにつれて懸念事項もある。団体で実施する以上はクリアしていかなかればならない事項ではあるが、今後海外修学旅行が増加するにつれて早期に改善すべき内容である。
・「費用が高額になる」…公立高校などでは従来の国内の修学旅行と比較して割高になりかねない。全体としては確かに海外旅行は低価格化であるのだが。
・「コミュニケ-ションの問題」…異なる言語で本当の相互理解がはかれるのか。その手立ては現在のところ、伝統芸能文化の交流会程度のことしかみあたらない。
・「交流先の相手探し」…現段階では学校が自力で探したり、旅行エ-ジェント頼みの現状。これにともなう現地交流受入れ組織(学校)への負担増。校レベルの格差。
・「日本型修学旅行の押し付け」…国内で実施してきた修学旅行のやり方を海外の地においても要求するなど。現地の習慣や事情の理解が不足
・「事前学習の不足」…生徒の事前学習が不十分なため、不用意な発言、行動が現地での国際摩擦を引き起こしたり、期待した学習効果が得られない。
・「事前準備の繁雑さ」…旅券取得、海外安全情報、現地との打ち合わせなど。ほとんど旅行エ-ジェント頼みの現状でいいのか。
・「航空機の利用」…海外修学旅行を検討している学校の中には、自治体が飛行機を認めていない所もある。この場合フェリ-の利用となるわけだが、旅行期間や現地滞在時間に影響してくる。
・「安全面について」…少々辛口になるが、学校は日本と同様の安全体制を現地でも期待しすぎる。海外の事情をふまえた事前認識が不足しているのでは。


四.まとめ
 こうして海外修学旅行の実施についての是非と検討してみると、概ね次のようにいえないか。実施のメリットは海外修学旅行の内容、実施意義にあり、デメリットは実施に際しての事前準備、実施斡旋のわずらわしさなど実務面にあるのではないかと思う。実施に踏み切るかどうかの基準は、費用や安全、事前準備以上に、実施により得られる意義や成果が期待できるかということであろう。どうしても事前準備に力点を置きすぎると面倒なだけの海外修学旅行という印象だけになってしまう。費用や条件ばかりに気をとられると、現地の斡旋体制や、学習内容にしわよせがいき、修学旅行自体がお粗末な結果になりかねない。ようはバランスの問題になってくるのかもしれない。得られる成果と種々の条件との兼ね合いか。寂しいことだが最終的には世界で通用するのは「お金」という共通の構図だけが残ることになるのだ。_

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